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名古屋高等裁判所 昭和54年(ラ)110号 決定

抗告人

有限会社森市商事

右代表者

森孝夫

抗告人

有限会社 ふみ

右代表者

水上光子

抗告人

有限会社栄住建

右代表者

深谷信栄

抗告人

舟橋清

右四名代理人

小川剛

主文

原決定を取消す。

抗告人らに対する別紙物件目録記載の各土地の競落を許さない。

理由

抗告人らは、主文と同旨の決定を求めた。その理由とするところは、別紙抗告状(写)に記載されているとおりである。

そこで検討するに、記録中の鑑定人豊嶋杪作成の鑑定評価書によれば、同鑑定人は、別紙物件目録記載の土地八筆(以下、「本件土地」という。)は市街化区域・住居地域に所在し、現況は地均し工事中とみられるので、宅地見込地として評価するのが適当であるとして、一平方メートルあたりの単価を金一万六七〇〇円と判定し、これに本件土地の登記地積をそのまま乗じて、一括して金三九八四万六二〇〇円との鑑定評価額を決定している(ただし、右単価の算定根拠は明らかにされていない。

なお鑑定評価書に添付された写真((D)・(E))には、たしかに宅地造成の状況が撮影されている。)。そして、本件土地の最低入札価額(八筆一括)は、右鑑定評価額に基づき、当初は金三九八四万七〇〇〇円と定められ、その後三回にわたつて低減され、抗告人らが競落した入札期日においては金二九〇五万一〇〇〇円と定められていたのであつた。

しかしながら、他方、抗告人らが提出した不動産鑑定士野崎優の作成にかかる報告書によると、本件土地はその九〇パーセント前後が、高低差約六メートルに及ぶ傾斜面であるばかりでなく、宅地造成工事規制区域・砂防土地の指定をも受けていること、また本件土地はすべて袋地であるうえ、その一部を供して設けた私道によつて分断されていることが認められるのである(ちなみに、本件土地には一部私道が含まれており、かつ、その大部分が極度の傾斜地であることは、記録中の賃貸借取調書においてつとに明らかにされている。しかるに、鑑定人豊嶋杪作成の鑑定評価書においては、これらの点が考慮された形跡が全くないのであつて、前記の写真(D)・(E)も、本件土地以外の部分の状況が撮影されている疑いが濃厚である。)。

右のような検討の上に立つて、鑑定人豊嶋杪の鑑定評価は、対象土地を誤認したか、あるいは宅地造成のため工事費用および私道により土地の一括利用を害される不利益を度外視してなされたものと考えざるをえない。そして、前記野崎優作成の報告書によれば、その数額こそ明らかにされていないものの、本件土地の宅地見込地としての経済価値は極めて低いというのである。

そうであるとすると、抗告人らが競落した入札期日における本件土地の最低入札価額二九〇五万一〇〇〇円は、競売手続当初のそれよりも約一〇〇〇万円減額されてはいるものの、なお本件土地の実価との差異は甚だしいものがあると推認するほかなく、このように、入札不動産の実価と公告された最低入札価額との差異が余りに甚だしいときは、適法な最低入札価額の公告がなかつたものとして、競売法三二条二項によつて準用される民訴法六八一条二項・六七二条四号所定の抗告事由にあたると解すべきである。

よつて、本件抗告は理由があるから、原決定を取消したうえ、抗告人らに対する本件土地の競落は許可しないこととして、主文のとおり決定する。

(村上悦雄 小島裕史 春日民雄)

〔抗告の理由〕

一、頭書競売事件において、昭和五四年五月二五日の競売期日において別紙目録記載物件(以下本物件という)の最低入札価額が合計二九〇五一、〇〇〇円、一部一括全部同時入札と定められていたところ、抗告人等は合計二九、八八〇、〇〇〇円で最高競売価額額申出人となり、同月三一日抗告人等に競落許可決定がなされた。(共有持分抗告人有限会社森市商事及び同有限会社信栄住建各三分の一、その他の抗告人各六分の一)

二、競落後抗告人等が調査したところ、最低入札価額決定の基礎となつた鑑定人豊嶋杪の鑑定評価書(以下評価書という)に重大な誤りがあることが発見された。

(一) 即ち評価書の総括別表摘要において「物件は現在宅地造成工事の途中にあるものと認められますので宅地見込地として一括鑑定評価を行つた」五、(4)物件の状態について「物件の地目は原野雑種地と登記されておりますが、現況は宅地造成の目的か物件全部の土地を地均しており(工事中とみる)前記地目の面影は見受けられない変化をしております。従つて鑑定人は本物件はすべて宅地見込地として取扱うのが適当と存じその鑑定評価を行つた次第であります」と記載され、添付写真(D)(E)ではそのように見受けられる。

(二) 「概要図写真撮影の方向を示す」によると本物件東側において全面道路に接し而も道路は本物件外のものであると観受けられる。

三、然し乍ら、右(一)について、本物件の状況は別紙写真(1)乃至(6)のとおり約九〇%が法面であつて、その法面の高低差六〜七メートルに亘るので、その宅地化は絶対不可能である。評価書(D)(E)の写真は、右の法面を越した上部(西側)の土地であつて本物件ではなく、別紙第一図面(公図)の―二一、―七等の土地である。

右(二)については別紙第一図面に見られるとおり、本物件の外に本物件に接して道路がある訳ではなく、本物件の一部と反対側の―一四、―一〇〇、―九九等の土地から相互に土地を出し合つた私道であり、更に第二図(名古屋市作成の航空写真地図)によれば右の道路(茶色の部分)は本物件の途中において直角に西に折れて本物件を二分している。従つて、本物件中所有権を完全に行使し得る範囲は相当小さくなる上一括して利用することは不可能となつている。右の事実を勘案すれば、本物件の評価は殆ど無価値であるというべきであつて、これを見誤つた評価書及びこれを基礎とした最低入札価額は違法、不当という外はなく、原決定は取消さるべきである。〈以下、省略〉

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